茶箪笥の奥

メモ置き場

『ぼっち・ざ・ろっく!』2話の写実とデフォルメ

例えば、Aパートの3人での会話中、バイトをしたくないひとりが親が貯めてくれた結婚費用を差し出し、それを使おうとするリョウを虹夏が止めるカット。



デフォルメされた表情や大粒の涙と、漫画的・定型表現的に描かれたひとり*1に対し、リョウの芝居はリアル志向。
「ありがとう、大事に使わせていただきます」と発言しながら、前かがみになり、左ひじを机につき、目をつむり、手刀を3回切り、貯金箱に手を伸ばす。段階を踏んだリアルな芝居作画により、リョウの『浪費家/守銭奴』という現実的な欠点の側面がより強調され、生々しい印象が残ります。

また、Bパートのライブが始まる前の会話の一連のシーケンスにも似た生っぽさを感じます。


ひとりが謝罪している最中に、リョウが画面外にスッとはけていき、


段ボールに入ることを勧めるという小ギャグに繋がる一連の流れ。

リョウの移動は、画面に映らなくても成立するし、必要性がないように思えます。しかし、その無駄ともいえる日常的な芝居が視聴者側に見えることは、現実感が生まれることにも繋がります。
デフォルメ表現を排し、ギャグのテンションも抑え気味。このシーケンスの生っぽさは、なだらかにその後のシリアスなシーンへと移行するための布石のような意図があるように思えます。

 

もうひとつ、Bパートのバイトから帰宅するひとりの場面。


1カット目.階段をのぼるひとり。虹夏に呼び止められ振り向く。


2カット目.ひとりが「また明日」と返す。


3カット目.ぐるぐる走りで街を走るひとり。

バイトの疲れを感じさせる、のそのそした歩き方が緻密に作画されている1カット目から、3カット目の極端な振れ幅が目立ちます。
苦手なコミュニケーションからの解放感がこれ以上なく表現されている、面白いカット繋ぎです。

今回、ブルーレイで観返しているのですが、写実とデフォルメを自由自在に、かつ計算高く行き来する豪胆さが、アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』の映像の楽しさの根幹であると改めて認識しました。

 

ぼっち・ざ・ろっく!#02「また明日」
絵コンテ:斎藤圭一郎、演出:藤原佳幸作画監督:助川裕彦

*1:そもそも普通は持ち歩かない貯金箱をいきなり差し出すのが極めて漫画的である。

ひとくちアニメ紹介006.あいうら

茶麻の4コマ漫画を原作とした、女子高生3人の日常を描いたショートアニメ。
OP1分→本編約2分→ED1本目30秒→本編約30秒→ED2本目1分30秒・・・というトリッキーな構成。

ストーリーやドラマはほぼなく、平坦な駄話が繰り返されるだけである。会話はとにかくさっぱりとしていて自然体。声優陣の素朴な演技も相まって、変にドラマチックになることもない。

しかし、あいうらはそれでいい。
この作品は、よくわからないことで盛り上がっている登場人物たちを観察するのがメインで、原則客観的視点寄りの演出がされている。*1日常会話が外から見て面白くないのは当然である。
つまらないギャグは作中でもつまらないものとして扱われるし、爆笑が巻き起こるなんてことはない。だからこそ、生の日常会話っぽい空気感になる。

彼女たちの日常の一部を切り取るかのように多用される、定点観測的なカメラワークや、同ポジションのレイアウトは、前述のコンセプトによくマッチした演出である。

よく『太腿アニメ』と評される作品だが、額面通り脚の描写は特にこだわりを感じる。3話の脚を映しての会話劇、7話のベッドで寝ている彩生、11話の彩生が靴下を脱ぐカットなど、妙に色っぽいシーンは挙げるときりがない。しかし、それもあくまで自然な色気の範疇で、押し付けてくることはない。この塩梅が絶妙だ。

この作品は一貫して客観的な視点で描かれているが、唯一最終話である12話は少しだけ感情が表出する。ED『ずっとね』をバックに、1話の対比のような演出がなされる。1話と比べ撮影処理がたくさん乗っている画面には、季節の流れを感じさせられる。
12話の「すっごく面白くないこと思いついた」「明日で良いです」「じゃあまた明日ね」という会話には、この作品の全てが詰まっていると思う。エモーショナル。

ニコニコ動画で4話まで無料配信されています。
実はサブスクでの無料配信はないらしい……。www.nicovideo.jp

*1:この演出方針は、Blu-ray初回版に付属の絵コンテ本で語られている。

ひとくちアニメ紹介005.さよならの朝に約束の花をかざろう

脚本家・岡田磨里の初監督作品。P.A.WORKS制作。

10代半ばで外見の成長が止まり、数百年生きるイオルフの民は、僻地で『ヒビオル』を織りながら平穏に暮らしていた。ある日、長寿の血を狙ったメザーテ王国に襲撃される。混乱の中を逃げ延びた主人公・マキアは、やがて森で人間の赤子を発見し、その子を育てる決意をする。

まず目を引くのは映像の素晴らしさ。
調和のとれた色彩が良い。深夜アニメ的なビビッドな色は控えめで、派手な色あいではない。しかしながら、全体的に彩度が高めで、シックな色も劇場映えしている。
演出的な色彩のコントロールといえば、中盤のマキアが真っ白な部屋にいるシーンが印象的。その無機質な白は、こちら側に畏怖の念すら抱かせる。
緻密な背景美術は、ファンタジー世界に実在感を与える。
そして何よりもその作画表現に圧倒される。
錚々たるアニメーターが参加しており、全編を通してクオリティは高い。特にメインアニメーター・井上俊之による冒頭の日常風景~レナト襲撃シーンは神がかっていると思う。

現在5周年記念で劇場公開中。8日間限定。ぜひ劇場で!

 

※ここからネタバレ

親子愛の話だの母性の話だのといろいろ言われる作品だが、私は「アイデンティティ」の作品だと捉えている。

主人公・マキアは孤児である。活発な友人・レイリアと自身を比較し、"跳べない"自分に複雑な感情を抱えている。さらに、メザーテ王国の襲撃により故郷を追われ、友人や故郷すらも失った。
元々希薄だったマキアのアイデンティティは、襲撃によって木っ端みじんに砕かれ、自殺すら考えてしまう程だった。
しかし、追われた先でたまたま見つけた赤子を拾い、エリアルと名付け、育てることを決断する。ミドという母親の手本に出会い、エリアルの母になることがアイデンティティとなった。「エリアルの立派な母親」というイメージ像に固執するマキアは、思春期を迎えたエリアルから突き放され、宙ぶらりんとなる。

マキアの対比となるレイリアは、メザーテ王国に囚われ、無理やり王子の妻となった。
恋仲のクリムとも引き離され、マキア同様、すべてを失った。
辛い現実の中、望まぬ子であったはずのメドメルだけが彼女の存在証明となった。しかし、メドメルとの面会は許されず、執着心ばかりが募っていく。

二人のアイデンティティは、自分の弱さや現実から目を逸らすために生まれたもので、見方によってはエゴに近いものだ。最終的には二人とも自分を見つめ直し、一度は得たアイデンティティを手放し、再び跳ぶ。自分の弱さに向きあい、認め、再出発する話だから美しいのだと思う。

ひとくちアニメ紹介004.宝島

ティーヴンソン原作の児童文学・宝島を原作とするテレビアニメ。
監督・出崎統、キャラデザ及び作画監督杉野昭夫。全26話。

とある港町。母親と2人で宿屋・ベンボー亭を営む少年・ジム・ホーキンズが主人公。ある日、宿屋に転がりこんだ海賊・ビリー・ボーンズが持っていた宝島の地図をジムが発見するところから冒険が始まる。

この作品、ジムを取り巻く大人たちがとにかく魅力的に描かれている。
ジムに夢を与えたビリー・ボーンズをはじめ、息子を送り出す母親、絵に描いたような英国紳士のリブシー先生、俗物だが人の良いトレローニ、一見杓子定規だが機転も利くスモレット船長、無口だが情に熱いグレー。そして、ジムが憧れる裏主人公、海賊のジョン・シルバーである。

シルバーは悪党である。自分の欲望に忠実で大胆不敵。必要とあらば平気で嘘をつくし、裏切る。優しさと厳しさ、強い信念と肉体を兼ね備え、一貫性があり、切れ者で弁が立つ。CV.若山弦蔵の渋い演技。この魅力を言葉で伝えるのは難しい。
この一面的でない人物描写があるからこそ、中盤以降のジムの葛藤、それを経た精神的な成長にも説得力が生まれる。
最終話では原作にはない後日談が描かれ、ジムとシルバーが再開を果たす。26話をかけて示された二人の関係性の蓄積が……本当に効いてくる見事なラストである。このアニメを簡潔に表すなら、「ジョン・シルバーが良い(あえてかっこいいではない)アニメ」ということに尽きると思う。

大橋学氏によるOP映像も素晴らしい。羽田健太郎作曲の勇ましい楽曲に合わせて描かれる、イマジネーションに溢れたアニメーションは、冒険心を駆り立てられるよう。

正直序盤はスロースターター気味なので(ここが丁寧だからこそ冒険の解放感や凱旋時の感動にも繋がってくるのだが!)、主要人物が出揃う6話~7話くらいまでは見てほしいのです。

 

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ひとくちアニメ紹介003.まかせてイルか!

こどものおもちゃ』『おじゃる丸』『ギャグマンガ日和』などの大地丙太郎監督の自主制作アニメ。ちなみに原作も大地監督。制作は新海誠監督作品で有名な『コミックス・ウェーブ・フィルム』。

鎌倉で便利屋を営む訳アリの3姉妹が主人公。学校には通わず、自給自足で生活している。ある日、『不登校の少年を学校に行かせる』という難しい依頼を受ける。その少年・陸は、自由に憧れ便利屋でバイトするのだが……というストーリー。
ポップな絵柄に似合わず、『自由・自立とは何か』といったシビアなテーマを扱い、『自由な選択には相応の責任やハードさがある』という、かなり厳しめなメッセージを突き付けてくる。

反面、大地監督作品らしいハイテンションな演出・アニメートは見ているだけで楽しい。ブルーグラス風のBGMに乗せて軽快にストーリーが進み、そこまで悲壮感を感じずに視聴できる。
亜細亜堂GAINAXが協力している作画面も良い。劇場版クラスの有名アニメーターが多数参加しており、作画のクオリティは折り紙つき。
中でも見逃せないのが手話作画。
主要キャラのひとり、碧は手話でコミュニケーションをとる「ろう者」である。
手描きアニメで手話を取り入れるのはかなり難しく、そういった作品は現在でも数えるほどしかない。*1
大地監督曰く、『カンフーのようでカッコいい』から取り入れたらしい。*2

なにぶんメッセージが濃ゆいので好き嫌いは分かれそうだけど、幸せに元気に生きる3姉妹の姿を見ると、自分も何かやらねばならない、そんな気分にさせてくれる良作です。

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*1:ぱっと思いつくのは、『映画 聲の形(2016)』『王様ランキング(2021~2022)』辺り

*2:https://togetter.com/li/670712

ひとくちアニメ紹介002.シスター・プリンセス Re Pure キャラクターズ

メディアミックス作品『シスター・プリンセス』の2本目のアニメ作品である、『シスター・プリンセス Re Pure』のBパート。
配信サイトでは、Aパート『ストーリーズ』とは別々に配信されている。

単行本『電撃G'sマガジン キャラクターコレクション シスター・プリンセス ~お兄ちゃん大好き~』シリーズを原作にしたオムニバス形式のアニメ。

主要スタッフを話数単位で変更するという特殊な制作方式をとっており、エピソードごとの作風が色濃く出ている。

岡崎律子氏の手掛けた優しいサウンドも相まって、全体を通して白昼夢のような雰囲気が漂う。

特筆したいのが、9話と12話。

9話は、ドイツからやってきた大和撫子を目指す妹、春歌のメイン回。七夕祭りが舞台。
彼氏彼女の事情』や『呪術廻戦』などのキャラデザを務めた平松禎史氏が絵コンテ・演出・作監を担当された回。
端正な日常芝居と着物の描写、お祭りの参道や水たまりを天の川に見立てる演出が美しい、瑞々しいエピソード。

12話は、スタイル抜群な最年長の妹、咲耶のメイン回。
のちに
蟲師』や『惡の華』などの監督となる長濱博史氏が絵コンテ・演出・作監
最年長ということもあってか、全エピソードの中でも最もアダルティ。
兄妹の恋が永遠に叶わないことを悟る(!?)咲耶という、『妹萌え作品でそれを扱っていいのか?』と思ってしまう根幹的なテーマが語られる。
「カラフルな幼い頃の思い出」と「色が失われた現在」を同ポジションで交互にフラッシュバックさせ、感情を鋭く描く演出が素晴らしい。

上記話数以外にも、ファンタジックな3話・7話、繊細なストーリーと演出が光る6話、単純に可愛い8話なんかも素敵。こういう実験的な企画をもっと観てみたい。

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ひとくちアニメ紹介001.ど根性ガエル 73話B『かんかんアキかんの巻』

『叙情的』という言葉が似合う名エピソード。

日曜の午前中。主人公・ひろしが蹴った空き缶が番長・ゴリライモに当たってしまい、『空き缶の借りは空き缶で返す』と意気込むゴリライモ。バットで打った空き缶をターゲットであるひろしに当てようと奮闘するが、なぜかそのどれもが目標を外れ、ゴリライモの舎弟・モグラに当たってしまう、というストーリーである。

このエピソードは、ハプニングの瞬間を見せてくれない。

冒頭の五郎が蹴った空き缶がひろしに直撃するシーンをはじめ、このストーリーのコアといえる空き缶が誰かに当たる瞬間は、基本的に描かれない。(一部例外あり)
効果音が鳴り、空き缶が当たった結果のみが映し出される。
見えないからこそ、見たいという欲求が生まれ、気になってしまう。
正直、空き缶が顔に当たるなんて安直なコメディだし、見えていたらここまで引っ掛からなかったかもしれない。
もちろん、作画枚数の省略という意図があるんだろうけれども、決してそれだけではない、優れた演出だと思う。

また、舞台が堤防に移る後半も良い。
間をたっぷりと取ることによって、日曜日ののんびりとした時間の流れがリリカルに演出されている。
BGオンリーのカットやロングショット、俯瞰レイアウトが多く、高度経済成長期の空気感を詰め込んだような小林七郎氏の背景美術が際立っている。

最終的に、ゴリライモがここまで缶に執着する理由も説明されず、川に流れる空き缶のカットで終了となる。
スラップスティックな『ど根性ガエル』の作風からはかけ離れた、妙に哀愁を帯びた異色エピソードに仕上がっている。

絵コンテ・原画は後に名監督となる小林治芝山努の両名。納得の出来です。

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